どの窓も簾さがれる揚羽蝶
晩涼の子の喜びし月その他
美しき砂をめぐりて蟻地獄
わが心いま獲物欲り蟻地獄
晩涼の簾をさへもあげぬまま
夕顔の開きし蕋は夕日得し
矢車の止りいくつも止り居り
男より高き背丈や初袷
袷着て山吹が散るつつじが散る
廚着をつけて身軽し夜の新樹
小説のヒロイン死ぬや更衣
緑蔭の皆があち向く水光る
緑蔭に経ちし時計をかざし見し
きらきらと濱晝顔が先んじぬ
二の腕の涼しき日焼のびやかに
目を病めば扇使ひも忙しなく
夏草の花や一途にかかはれば
畦暑しいよいよ竝び蛇苺
乳牛が啼いておどして蛇苺
羅や青無花果は太り居り
羅の肩をおほへる稲光
暁のその始りの蝉一つ
涼風の裂くばかりなる頁読む
突風の涼しさは子の高笑ひ