和歌と俳句

中村汀女

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どの窓も簾さがれる揚羽蝶

晩涼の子の喜びし月その他

美しき砂をめぐりて蟻地獄

わが心いま獲物欲り蟻地獄

晩涼の簾をさへもあげぬまま

夕顔の開きし蕋は夕日得し

矢車の止りいくつも止り居り

男より高き背丈や初袷

着て山吹が散るつつじが散る

廚着をつけて身軽し夜の新樹

小説のヒロイン死ぬや更衣

緑蔭の皆があち向く水光る

緑蔭に経ちし時計をかざし見し

きらきらと濱晝顔が先んじぬ

二の腕の涼しき日焼のびやかに

目を病めば扇使ひも忙しなく

夏草の花や一途にかかはれば

畦暑しいよいよ竝び蛇苺

乳牛が啼いておどして蛇苺

や青無花果は太り居り

の肩をおほへる稲光

暁のその始りの一つ

涼風の裂くばかりなる頁読む

突風の涼しさは子の高笑ひ