和歌と俳句

中村汀女

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かいま見し驛の離別や初袷

番傘の軽さ明るさ薔薇の雨

灯蟲来る夜の鏡のうつろかな

時ふれば手桶水澄み濁り鮒

わが鳴らす麥笛ぴぴと手にこたへ

麥笛の吹けばよく鳴るさびしさよ

亀の子の歩むを持つてひきもどし

数歩来て噴水とみに激しさに

緑蔭を立ち出づるとき咲ける

鶯やさみだれ小止みながきとき

衣紋竹夜更の衣吊るとして

夜は夜の灯のとどかずに黴畳

用のなき燈を消し置きて五月雨

客席の暗きに風の扇黒

踊り子の二たび三たび梅雨窓に

取り上げしものゆゑ飛びし紙涼し

晝寝宿南瓜の花のほしいまま

夕焼けて何もあはれや船料理

顔打つて新樹の風のくだけ散る

傘かしげ新樹の雨のはげしさに

わが影のはや添ふ菖蒲葺きにけり

髪を結ふ白き腕や軒菖蒲

沸きし湯に切先青き菖蒲かな

菖蒲湯を拭きもあへず出づ子等と