思ふ事金魚にばかりいひにけり 喜舟
かはたれの水ふかくゐる金魚かな 悌二郎
一様に風にゆられて金魚かな みどり女
葵より芥子より赤き金魚かな 喜舟
金魚大鱗夕焼の空の如きあり たかし
賤が家に飼はれて老いし金魚かな 石鼎
藻の中に久しく尾ある金魚かな 石鼎
清らかに飼うて二匹の金魚かな 喜舟
金魚掬ふ行水の子の肩さめし 久女
雨晴れてちりぢりにある金魚かな 素十
やつとお天気になり金魚、金魚 山頭火
獅子頭揺らぎ揺らぎの金魚かな 喜舟
羽衣を猩々を舞ふ金魚かな 喜舟
ふくよかに屍の麗はしき金魚かな 淡路女
思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ 草田男
あるときの我をよぎれる金魚かな 汀女
死の家の金魚の池に日がさせる 波津女
金魚らの仰向く水を見下して 風生
閑暇憂し金魚は昼の水に浮き 信子
書屋暗く金魚の紅の漾々と 青邨
紙の網あやふくたのし金魚追ふ 梵
金魚あり蓄音機あり夜の書斎 杞陽
夕されば赤き金魚にひとを思ふ 林火
金魚選る母なるひとも打ち交り 林火
燈に映えて影ゆたかなる金魚選る 林火
玻璃に金魚いきいきとクレゾール匂ふ 林火
餌をあさりつゝ尾をふれる金魚かな 占魚