和歌と俳句

山口波津女

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二三回とりてなじめり歌がるた

ぬぎ捨てて一夜明けにき花衣

三十にわが近づきぬ雛飾り

入学を許されし子等相よれり

大いなる鱗飛び散る桜鯛

足袋ぬいでつられ覚えぬ花衣

唐黍を焼く火のあつし祭店

両舷の景相似たり籐寝椅子

夕焼や西へ西へと船すすむ

煖房や扉あけてやすむ昇降機

過ぎし日の日記をつけぬ松の内

若き日の母われ知れり歌がるた

一輪のを持ちし手が疲る

洗ひ髪背に垂れ若き日のごとく

来て畳にひかりともしけり

死しあさひはたかくのぼりけり

商館も船も真白き日覆張る

高き厦日覆の白を暗くしぬ

花市のあしたの日覆花にほふ

日覆灼け花市の花香にむせし

花市の薔薇のにほへり駕ゆくに

日覆の街の花市いま果てし

緑蔭に顔くらくなり駕着きぬ

駕着けり緑蔭にして地に降りぬ

船発ちて白き日覆に煤降らす

船ゆきて日覆も波の上ゆけり

機関室海より低く夏日さす

船の路昼寝のころは島絶えし

昼寝覚め青き潮路にわがゐたり

昼寝覚め両舷に島来り去る

船橋に夏の日低くなりて没る

吸入やつよき近眼の眼鏡とる

煖房にホテル夜更けの事務をとる

飾り皿燃ゆる煖炉の火がうつる

潮路来て夏日に灼けし国を踏む

避暑の宿庭あり游ぐ海魚あり

夕焼けて出港間なき船がゐる

暑かりし日輪海に没るところ

死の家の金魚の池に日がさせる

夜光虫真黒き島が来て過ぎぬ

夜光虫詩なき水夫も目に見たり

稲妻を島のかなたに見て航ける

出帆旗北風に羽搏ちて昇りゆく

ゆふざくら堂の靴音出で来る

馬酔木咲く丘は野となり丘となる

石をゆく蜥蜴の音を聞かざりき

青蜥蜴わが息しばしとめて見る

逝きまししその日の大暑尚つづく