和歌と俳句

山口波津女

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泳ぎ了へ隊伍しづかに去りゆけり

天の川ながき手紙を書き終る

颱風の白浪近く箸をとる

曼殊沙華軌道ここより岐れゆく

風邪に寝て頭のなかに海青く

風邪癒えてはや常の日の二三日

紅き日をおがみてやがての声

冬の夜の汽車発つ音に心とむ

われ起きてはじまるけふのきびし

時雨来ぬわが松林は濡れずして

寒月に照る海を見て寝に就く

年祝ふ家族の増ゆることもなく

汽車行きて氷る山田を煙らしむ

幼な子の手のあたたかし干潟ゆく

汽車はすぐ海とわかれて野の青さ

汽車行きて峡の青田を見下しぬ

咲く藤をかなしと思ふ峡の奥

父の墓野山の青き中に立つ

明るくて夏の夕餉はすでに終ふ

宵の雨のともる頃をやむ

雁の声絶えてそれより夜も更けぬ

われ起きしときのこゑすでにあり

稲妻の一瞬われも河も照る

稲妻のつづけさまなりわれ黙す

稲妻を背にして文を書きつづく

父在りし日も法師蝉かく鳴けり

暑ければ暑きがかなし父の忌は

年ごとに大暑の忌日迎へけり

遠泳を了へし足並しづかなり

列正し遠泳了へしとも見えず

露の庭玻璃戸あくれば身に迫る

わが影の髪乱れつつ北風を行く

暗くなり子等は竹馬なほ下りず

木枯や為すことありて夜を更かす

閂の雪払ふ頃なほ明けず

電柱と冬木のみなりあゆみゆく

山深く汽車は入り来ぬ春の雪

思はざる笠置の花を旅に見る

牡丹とありし旬日過ぎにけり

原稿紙机上に白く至る

一天の青き下なる紫蘇の壺

梅干して来し厨辺のただ暗く

蚊火消えてわれ等が臥床くらがりに

夫に手を見られてむける夏みかん

こほろぎや廚じまひのおくれつつ

颱風の沖浪すぐに浜に来る

わが旅にさかりを過ぎし曼殊沙華

薄原望はきのふとなりにけり

高音いそぎの文を書けるとき