和歌と俳句

橋本多佳子

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夜光虫星天海を照らさざる

夜光虫火星が赫く波に懸る

夜光虫垂直の舳を高く航く

夜光虫夜の舷に吾は倚る

夜光虫さびしや天の星を見る

捕虫網子等は穂わたをかゆがれる

捕虫網草原に且つ青かりき

捕虫網草原の日に出て焼くる

樹々にほひ更衣のあした嵐せり

あらはれて高架走輪新樹に入る

雨あれて緑陰の椅子部屋にある

騎馬南風に駆り来て波に乗り入れず

向日葵に天よりあつき光来る

向日葵の蕚たくましく日に向へり

向日葵は火照りはげしく昏てれゐる

向日葵に夜の髪垂りてしづくせる

渡御まちぬ夕の赤光河にながれ

渡御の舟みあかしくらくすぎませる

地の籠に枇杷採りあふれなほ運ばる

枇杷のもと農婦とあつき枇杷すする

栗の花日に熟れ草に農婦等と

草に寝て栗の照花額にする

大阿蘇の波なす青野夜もあをき

子がたてりこの野の掌にとぼし

蛍籠子等が匂はせ地にも飛ぶ

蛍火が掌をもれひとをくらくする

莨の葉蛍をらしめ列車いづ

青草の草千里浜天さびし

駆くる野馬夏野の青にかくれなし

青牧に中岳霧を降ろし来る

日輪に青野の霧が粗く降る

霧ゆきて炎ゆる日輪をかくさざる

夏雲に胸たくましき野馬駆くる

夏雲に昂る野馬が野を駆くる

熔岩を攀ぢ夏青山を四方に見ず

霧巻くに炎ゆる日輪懸りたる

岩燕泥濘たぎち火口なり

火口壁灼くるに人を見し驚き

火噴くとき夏日を天に失へり

噴煙は灼くる天搏ち巻き降る

神の火に対ひ炎日を忘れたり

噴煙の熱風に身を纏かれたり

新樹荒れタキシー水漬きつつ駆くる

新樹荒れ埠頭の鉄路浪駆けり

夏潮の青さ絨毯をふみて船室

銀河濃し無電の部屋へ階をのぼる

船檣に夏夜の星座ゆるる愉しさ

夏暁のオリオンを地に船着けり

夜の軽羅硬きナプキンを手にひらく

遠花火夜の髪梳きて長崎に

海燕歩廊に青き海暁けたり

連絡船峡の青嶺が灼け迫る

青林檎噛みつつひとは海に向へり

夏潮に航送の貨車車輪あらは

貨物船油流しつつ朝焼くる

船繋り夏潮段をなして落つ