和歌と俳句

橋本多佳子

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土中より筍老いたる夫婦の財

の穴が地軸の暗さ見す

と老婆その影むらさきに

田を植ゑてあがるや泳ぎ着きし如

妻の紅眼にする田植づかれのとき

男女入れ依然暗黒木下闇

仔の鹿と出会いがしらのともはにかみ

梅壺の底の暗さよ祖母・母・われ

一粒一粒漬梅かさね壺口まで

漬梅を封ぜし壺を撫でいとしむ

漬梅と女の言葉壺に封ず

金銀を封ぜし如き梅壺

梅干を封ぜし壺のなぜ肩よ

透ける簾に草炎の崖へだつ

七月の光が重し蝶の翅

十代の手足熱砂に身を埋め

海昃りはつと影消す砂日傘

けふの果紅の峰雲海に立つ

乳母車帰る峰雲ばら色に

華麗なるたいくつ時間ばらの園

爛熟のばら園時間滞る

らん塾のばら園天へ蠅脱す

姉妹同じ声音鳴く中に会ひ

籐椅子が四つ四人姉妹会ふ

蝉声に高音加はる死は遠し

女やすむとき干梅の香が通る

紅き梅コロナの炎ゆる直下に干す

甲虫飛んで弱尻見せにけり

西日浄土干梅に塩結晶す

吾去れば夏草の領白毫寺

鵜飼見る盲ひ鵜匠と顔並べ

鵜舟より火花とびくる盲鵜匠

かなしき距て鵜篝と盲鵜匠

盲鵜匠疲れ鵜羽うつ翼風

出陣の稚き眉目の武者人形

牡丹畑日熱りのいま入り難し

わが寝屋に出でし百足虫は必殺す

百足虫殺さむとすわれの力頼み

雨風に巣藁のなびき法華尼寺

くろがねの甲虫死して掌に軽し

悲しき夏百日のはじめの日

わが髪にぶんぶんもつれ啼きわめく

蜥蜴食ひ猫ねんごろに身を舐める

炎天下夫婦遍路の白二点

書を曝す中に紅惨戦絵図