和歌と俳句

橋本多佳子

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樹々伐られ夏嶽園に迫り聳つ

月燦々樹を伐られたる花栗

花栗の枝ふりかぶり斧うちうつ

生々と切り株にほふ雲の峰

紫蘇しぼりしぼりて母の恋ひしかり

もの書けるひと日は指を紫蘇にそめ

濃き墨のかはきやすさよ青嵐

蛇いでてすぐに女人に会ひにけり

蛇を見し眼もて弥勒を拝しけり

吾去ればみ仏の前蛇遊ぶ

ゆきすがる片戸の隙もの金

手に拾ひ金色はしる一と穂

北庭に下りて得たりし蝸牛

仔鹿駆くること嬉しくて母離る

万緑やおどろきやすき仔鹿ゐて

袋角指触れねども熱きなり

袋角神の憂鬱極りぬ

袋角森ゆきゆきて傷つきぬ

いたどりの一節の紅に旅曇る

いそがざるものありや牡丹に雨かかる

旅の手の夏みかんむきなほ汚る

花栗に寄りしばかりに香にまみる

敷かれたるハンカチ心素直に坐す

夕焼に柵して住む煙突を出し

死が近し翼を以て蝶降り来