あを芝の外輪山よりなだれたる巖の谿ふかし底の激湍川
汽車みちの下びにふかき瀧おつる阿蘇の火口Pのぼり我がをり
旅を来し心はをどれ阿蘇山の青裾原にひろく向ひて
風ひろき大草はらを牛にのり青芝山の温泉にゆくわれは
牛の背に慣るればときに鞍を下り草はらのうへに覆盆子をぞ摘む
わが行ける阿蘇の夏野の郭公はとほき谷間になほ鳴きのこる
山原を霧ふき上り雨気づくやその叢の夕ほととぎす
山のうへに草千里濱とは寂しけれ雲がたちまちひくく時雨れつ
きり小雨牧場にいななく駒居ぬはいづべの山のかげにか群るらむ
くさ原の盤紆はろけし雨のなかとほき小山に馬あらはるる
中岳のけむりがちかき草野はら三十六坊いにしへの跡
山のうへに海濱ありと思はねど霧さめ潤ふ霾の砂濱
天つ霧あたりを鎖ぢてかしこきや火口にちかき地の底ぞ鳴る
霾原を雲くらく偃ひて風はやし行く手のひとの帽吹きおとす
霧小雨くらく繁けれ霾路には硫黄のにほひ吹きそめにけり
来る人も霧の晴間に見えわたり一目にひろし砂千里濱
思はざる霧のなかより大き巖みちを塞ぎてあらはれにけり
夜半にして時雨のきたる山のかひ日和さだめぬ冬さりにけり
日本海の寒さのおよぶ國ざかひ山家ずまひに雪をおそるる
収穫のをはれる峡はひそかなれ裏山の竃に炭焼きそめぬ
歳の暮幾日もなきを今日雨の暖かにふれば心落ちつく
ふゆ庭の石より立てる音かそけし姿のはやき三十三才どり
相寄りて山の昼餉に背負ひ来し大き飯櫃ひらきてぞ食ふ
山にして食す飯うまし沢庵漬を誰れはばからず音さして食む
雨ながら焚火の煙ひろがりて木立のおくに入るがしづけし