中村憲吉

高野山に後夜の月てる御廟奥三寶鳥のこゑ待つわれは

御廟杉に月照りきたるひがしより佛法僧鳥のとほく呼びそむ

ぶつぽふそう御廟月夜に来てなけり靄のなかよりほがらかに鳴く

三寶のこゑ鳴くとりは大師さへいみじき鳥と聞きたまひけり

遠山の月夜に答ふこゑおこり佛法僧鳥は一つにてあらぬ

ぶつぽふそう月照る山にふたつをり鳴きうつりつつ夜もすがらなる

むささびも呼びてなかぬか暮れかかる高野のおくの眞別処みち

ゆふぐれて寺門に来ればいきほへる細谷川や雨ふり増しし

しづけさや高野の山のおくになほ隠れし寺を求めてたてにけり

にはたづみ砂の流れし寺門みち杉は日ぐれて雫きつつをり

山でらの夕庭にしけるしろき花あめに打たれし沙羅の木のはな

ことさらに人来ぬ谷に建てしてら今にしづけし眞別処院

谷のうちに四方の音せぬむかしより戒壇院を厳にもつ

寺門にて敬禮の鐘をつきて入れば山へひびきて音あはれなる

夕ぐるる山寺の庭おとのなし吾等きたりて囁くをはばかる

水のおとかすかにするは日の暮れし庫裡にあるひは筧かも落つ

閼伽水を汲みてか雨や降りぬれし庫裡のみぎりの大備前甕

うつし世に久遠のみちは恋はずともわが下凡さへなげかで過ぎし

多武の峯の月しろどきを見瀬に下り岡へ行かむはこころ恋ほしも

山かぜを孕みてたぎつ明日香川の出ぐちの岡の里にやどらむ

中大兄鎌足も南淵へかよひけむ山かひみちを友と月夜に

山を以てしづかにかこむ高市村いにしへびとは住みつきにけり

おぼろ夜に見えわたる山の幾廣田ふるき京のあとか寂びたる

山びうへ上居むらより照らしくる十六夜月にいにしへ念ほゆ

旅ごころ静になりぬ片ゐなか明日香の岡に友とやどりて

和歌と俳句

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