中村憲吉

日のうちは向うへわたり夕橋をかへるにさむし堂島の風

橋うへの砂吹きさらす風つよし大川にあがる逆しら浪

諸國より世の年越の険しさの電報つづきて日の暮れにけり

大晦日の夜まで働きつづけたる心さみしも灯なかを帰る

みづからの命を思はぬ悔おこる慌しくて年は暮れたり

年明けし今朝にものこれ昨日まで市にわが出し惶しさの

降る雪は柳にたまれ垣そとの干池の底もつもりつつ見ゆ

降る雪のはだら松原真向ひに色しづまりて鴉鳴くきこゆ

玄関に脱ぎ捨てられし子らの下駄冬のこほろぎ遅く隠れぬ

雨漏りて温くしめれる壁につき冬の蟋蟀二つ居りけり

み空かぜ夜に入るかぜは吹きつげど都のたよりもたらす声なし

ただならぬ都にかあらむ天にかよふ無線電話も言かよはなく

すでに聞けば富士山帯に地震おこり土裂けて湯気を噴きてありちふ

みやこべへ言かよふべく海にくがに術の尽きつつ遂にさみしき

國こぞり電話を呼べど亡びたりや大東京に声なくなりぬ

ぬばたまの夜に入れども應へざる都はひとのはた生きてありや

國のいのちいまだ何処かに保ちたらし都のたより夜ぶかくとどく

横浜が焼けほろぶ云ふ声きこゆ夜ふかくして潮岬より

昨夜の間に岩みずのごと滴りたまれる災禍のしらせ皆おそろしき

今日もまた日照りはあつし焼土の都の人ら蔭無みにあらむ

朝あさの道に露けき鴨跖草やありがたく生くる我を思ふも

和歌と俳句

額田王 鏡王女 志貴皇子 湯原王 弓削皇子 大伯皇女 大津皇子 人麻呂 黒人 金村 旅人 大伴坂上郎女 憶良 赤人 笠郎女 家持 古歌集 古集 万葉集東歌 万葉集防人歌
子規 一葉 左千夫 鉄幹 晶子 龍之介 赤彦 八一 茂吉 白秋 牧水 啄木 利玄 千樫 耕平 迢空