おほきみの御大葬の過ぎながら雪はますます降りてひそけき
おくれたる梅雨ぞいたりて田植すみ山がはの里しづかになりぬ
田植過ぎてなほさみだるれ隣国の半夏の市へ牛のぼるころ
山かひのさみだれに濡れて旅をする市行牛は蓑をつけたり
さみだれは暗きながらに宿駅路へこゑきこえくる山ほととぎす
山なかの大禅寺のおく谷は植田のあるが物しづかなる
人里はちかくにあれど谷の戸を杉のとざして寂かなる寺
夏行僧いく百こもる寺なれど杉に蝉なき昼のしづけさ
ころも著てあはれなるかな山門へ野良の作務より僧かへりけり
いく日の夏籠づかれ夕かたを寺門の川に下りて水あぶ
杉の樹に啼くひぐらしは渓のおとと耳にひとつに入りてしづけし
頭より川みず浴びてすがすがし物のつかれを洗ひておとす
杉のうへの空にうごけるしら雲はいづべの谷に行きをさまらむ
ひぐらしを一とき急きて鳴かしめしばかりに谷の雨すぎにけり
梵鐘の音いまだ撞かざる山内は夕齋まへの明るさにあり
ひぐらしの谷のみ寺に今日もこもり静かに過ぎし事のうれしき
殿堂は下にいく重もくらく見ゆ祖師廟いづる後夜のあけがた
あかときの雲堂の行事をはるらし殿鼓堂鐘相呼びおこる
國境のわが山に来て添水搗く山家を宿にふた夜ねむりぬ
山里は秋めくはやしこの宿に蚊帳せぬ夜寝をすがしみにけり
門に出ば眼にいる四方の黄葉さへそこはか散りて秋のみじかさ
時雨経て紅葉はふるしふゆ庭の石燈籠に散りのこりたる
四方山に霜おく日らのすかなけむ今年の黄葉けだし寂しき
朝ぎりに荷積ひさしき馬ぐるま馬のたてがみ霜おきにけり
朝日照り霧ふきくれば馬嘶きて宿場ぐるまが發ちつつ行くも