一軒家より色が出て春着の児
早春や馬首を進むる火口原
神の梅我にほころびかけにけり
花の数おしくらしあふ椿かな
山又山山櫻又山櫻
故園逍遥吾に蛙のしたがはず
蔓たれて水田のへりに下り藤
死の雨か摘まれし苺やはらかに
アロハ着て安息日の主人かな
登山道なかなか高くなつて来ず
赤富士に吉田の宿の覚めきらず
滝打のとどろとどろと頭鳴る
道の秋馬を放すも柵結はず
「過はくりかへさぬ」碑盆来る
北洋を帰りし盆の街の漁夫
山の湖をつぶてうちせる野分かな
舟乙女ひとり毬藻の歌うたふ
ヌプリとは蝦夷なる高嶺とりかぶと
灯一つコタンの秋の夕かな
秋深し生きし古人は古書に在り
寒波急日本は細くなりしまま
雪礫あへなく没し雪に帰す
炭窯や莚巻きたる煙出し
石しぐれ二十五菩薩楽奏す
書巻の気惻々たりし火鉢かな
あおぞらに外套つるし古着市