大空の八隅に奏で法師蝉
三日月や祷の鐘は天に鳴り
三日月のひかりのほそき祷かな
舞茸の大きな幸よ御師の宿
時雨忌や言を容れざる一人去る
歌塚と彫りとどめたる野は枯れぬ
わたぬきてさあらぬさまの海鼠かな
晴れわたり寒の太陽西に行く
照るときの伊吹の鞍や雪起
雪の湖井伊大老の居城立つ
こよひ焼くべかりしに奈良雪の山
抽斗をぬけばそこにも隙間風
外套や神経痛といふ枷あり
人間の足のししむら追儺鬼
白魚のまことしやかに魂ふるふ
雨の梅散らし尾長のひるがへり
淀城に生ふる水草を雨の打つ
玄海を隠す軒端の風椿
春潮や古事記の如く島を生み
山葵田の水のささらや朝ぼらけ
野の菫大和の塔の庇にも
光背に佛のかずのおぼろかな
開花葉勢印のみほとけ糸ざくら
浜砂を吹き壺焼の火を散らす
海女戻るみちの蜜柑の夜も咲く
緑蔭に龍骨いまだ舟成さず
さみだれや手賀も印旛も見えぬ汽車