和歌と俳句

源兼昌

しのぶとも かかる涙に 唐衣 あらはれぬべき ここちこそすれ

しらなみに ゆらされてくる よりたけの 一夜も寝ねば 恋ひしかりけり

かちそむる 飾磨のみぞの 枯れ果てて 逢ひ見て過ぎし 神無月かな

逢ふことを 年切りしたる わが身かな 花咲きがたき 桃ならなくに

みやこ人 恋ひしきまでに 音せぬは 勿来の関に さはるにやあらむ

わぎもこに あふみなりせば さりとわれ ふみもみてまし とどろきの橋

きほひつる をぶちの駒の まづ立ちて かつ見る人も 恋ひしかりけり

夢にさへ 涙せきあへぬ 身にしあれば 寝ても覚めても 濡るる袖かな

ひねもすに 暮れ待ち待ちて 暮れぬれば 夜もすがらまた 人をこそ待て

妹が家の 方に関守 すゑてしか 今朝別れ行く われとまるかに

富士の山 おりゐる雲は たちのばる けぶりのやがて なるにやあるらむ

彦星の こころも空に 初秋の 七日の夜をや 恋ひしかるらむ

わたつうみは はるけきものを いかにして 有馬の山に しほ湯出づらむ

君が代の 数にしとらば うちのぼる 佐保の河原の 石もたらじな

いろいろの 袖もかはるか 唐衣 打出の浜の 波な来寄せそ

浅茅生の 露に上毛や そぼつらむ あしたの原に 鶉鳴くなり

名に立てぬ みやま隠れの 滝なれど 流れは里の 人に知られぬ

吹く風に みくさかたよる 池水は なかはくもれる かがみなりけり

佐保殿の さかゆるみれば かげふれて ふるさととこそ おぼえざりけれ

有為の世は けふかあすかの 鐘の音を あはれいつまで きかむとすらむ