いなしきや そともの小田に ふす鴫の 隠れぬばかり ひつぢ生ひにけり
秋の野の 花わけゆけば 草々の 香うつりぬらむ わが衣手に
そなれ松 枝に錦の かかれるは 木つたふ蔦の 紅葉なりけり
片岡の をふしまじりに 生ひしげる ははその小枝 初紅葉せり
急ぐ旅 憂しとは人に 見えつらむ 月待ち出づる 秋の山の端
夕されば 荻の下葉や 暗からむ つきまつむしの こゑきこゆなり
御狩野に なく鈴虫を はしたかの くさとりてゆく 音かとぞきく
秋の野に やどりをすれば きりぎりす かたしく袖の 下に鳴くなり
夕暮れの 霙にしみや とけぬらむ 垂氷つたひに 雫落つなり
初御雪 降りにけらしな あらち山 越の旅人 橇に乗るまで
あはせつる 真白の鷹も 心あらば みこし近くて 空にとらなむ
逢坂の 筧の水に 流るるは 音羽の山の 紅葉なりけり
もろびとの 遊ぶなるかな をとめ子が 汗衫の裾の 長き夜すがら
しぐれつつ 吹く山風に 椎柴の 枝はなびけど 色は変はらず
折りくぶる 柴はさまざま 見ゆれども 煙は同じ 色にこそ立て
閨の上に 霰たばしる 夜半なれど 妹と衾は 冴えずぞありける
山川に 友なき鴛は かげを見て ひとつかひある ここちすらしも
ふえたけの つかひはいつか こち来らむ あな待ち遠の 道のあひだや
小夜更けて 今ぞ法の師 出でぬらむ 雲の上人 名のりすらしも
とどむるに とどまらざりし 春なれど まつには来けり 年の内にも