和歌と俳句

慈円

散りはてて 木の葉がくれも なかりけり のこるあらしに やどる月かげ

けさの雪に なさけなき名や のこしてむ あとををしみて 人をとはずは

花の春 月の秋こそ こひしけれ 雪に人こぬ 冬の山里

雪のうちに 柴うちくぶる 夕けぶり さびしき色の 空にみえぬる

与謝の浦 まつ風さそふ さよ千鳥 波よりほかに 袖ぬらせとや

こやの池の こほりの上に こほりして 月にすむなる 鴛のこゑかな

あはれなる かりはの小野の とだちかな おもへばこれや つみのかよひぢ

となふなる みよのほとけの 夜はなれば おのれとなのる くものうへ人

みにとまる 年をさへこそ をしみけれ 春と秋の くれしならひに

あまつ風 おくればかへる 年なみに 五十路の袖を ぬらしつるかな

いかでわが いのるしるしを あらはさむ 三輪の社の 杉のこずゑに

新古今集・恋
わが恋は 松を時雨の 染めかねて 真葛が原に 風さわぐなり

きみゆゑは 月もながめつ ありあけの そらたのめさへ なほぞうれしき

思ひきや 恋ひすてふ名は 高瀬舟 さしもなぎさに 波かけむとは

いとどしく われはうらみそ かさねつる たれまつしまの あまのもしほ火

いたづらに なき名ばかりは たつた川 わたらぬ袖を いくよ濡らしつ

むかしこそ 月やあらぬと ながむなれ 春さへくれぬ わがもとのみに

たれかまつ けさみちしばを わかつらむ もとおく露も 人の涙か

あかでのみ 笹わくるあさの 恋衣 濡れて干すべき 契りなりけり

墨染の 袖をばいかに しぼるぞと とがむる人の なきぞ悲しき