和歌と俳句

続後撰和歌集

釈経

大僧正行基
かりそめの やどかるわれぞ いまさらに ものなおもひそ 仏とをなれ

天台大師の忌日によみ侍ける 大僧正慈恵
そのかみの−いもゐの庭に あまれりし 草の莚も けふやしくらむ

僧正静観
年をへて いたくなめでそ 山の花 菩提の種に ならぬものゆゑ

叡空上人
何ゆゑか やどをあくがれ 出でにけむ さしいる月の 光をもみて

高弁上人
山の端に われも入りなむ 月も入れ よなよなことに またともにせむ

大僧正証観
はるあきの 花のいろいろ 匂へども 種はひとつの はちすなりけり

皇太后宮大夫俊成
ゆくすゑの 花のひかりの 名をきくに かねてぞ春に 逢ふここちする

八条院高倉
いそぎたて ここはかりねの 草枕 なほ奥ふかし み吉野の里

権大僧都源信
くらきより くらきになほや まよはまし 衣のうらの 玉なかりせば

法橋春誓
月影や 法のとぼそを さしつらむ しづかにたたく みねの松風

崇徳院御製
いにしへは しく人もなく ならひきて さゆる霜夜の 床となりけむ

京極関白家肥後
もとゆひの 中なる法の たまさかに とかぬかぎりは 知る人ぞなき

法成寺入道前摂政太政大臣道長
上もなき 道をもとむる 心には 命も身をも 惜しむものかは

法成寺入道前摂政太政大臣道長
ひとめには よのうき雲に かくろへて なほすみわたる 山の端の月

選子内親王
さやかなる 月の光の てらさずは くらき道にや ひとりゆかまし

権少僧都延真
あだにおく すゑ葉の露は しげけれど 中に結ぶぞ 玉とみえける

参議雅経
高き屋に をさまれる世を 空にみて 民のかまども けぶりたつなり

前大納言公任
たづねくる ちぎりしあれば ゆくすゑも 流れて法の 水は絶えせじ

崇徳院御製
雪にこそ ねやの扇は たとへしか 心の月の しるべなりける

藤原光俊朝臣
うらやまし 草の莚を しきしのび うきよに出でぬ 雪の山人