身にしみて いとふ風とは 知らずして 花によるとも 思ひけるかな
青柳の 糸ふき乱る 春風も いかにくるしき ものとかはしる
松が根に 衣かたしき 夜もすがら ながむる月を 妹みるらむか
今年より 枝さしそむる 松の木の 花のをりをり 君ぞ見るべき
年も経ぬ つくまの神に ことよせて 苗の数にも 人のいれなむ
雪のうちに つぼみにけりな 梅の花 散る明方に なりやしぬらむ
としまより とわたる舟の ともやかた やかたつれなき 妹が心か
あらたまの 年のはじめに 降りしけば 初雪とこそ いふべかりけれ
金葉集・春
あらたまの 年のはじめに 降りしけば 初雪とこそ いふべかるらむ
朝戸あけて 春のこずゑの 雪みれば 初花ともや いふべかるらむ
五月雨の いまきの丘の ほととぎす しとどに濡れて なきわたるかな
まつのきの ねにあらはれぬ わが恋は 人の心の かたきしなれば
ほととぎす 声あかなくに 山彦の こたふる里ぞ うれしかりける
うらもなく 今はひとつに わぎもこが あひ見そめけむ くもとりの綾
なほ来なけ いまだ皐月ぞ ほととぎす 思ひたがへて 山へ帰るな
またさらに 初音とぞ待つ ほととぎす おなし皐月も 月しかはれば
告げざらば こぞにならひて ほととぎす ほとほと山に 入りやしなまし
うらみかね さよの衣を 人知れず 思ひかへせど なぐさまぬかな
ひたすらに さよの衣に ことよせて うらなき人を うらみざらなむ
まだしきに 逢坂山に たちいづる この月かげの こまはあらじを
もり来ずば いかでか見まし 逢坂の この月かげの こまぞうれしき