よみ人しらず
物思ふと月日のゆくもしらざりつ雁こそなきて秋とつげつれ
よみ人しらず
雁がねのなきつるなへに唐衣たつたの山はもみぢしにけり
よみ人しらず
秋風にさそはれ渡る雁がねは物思ふ人のやどをよかなん
よみ人しらず
誰きけと鳴く雁がねぞわがやどの尾花が末を過きがてにして
よみ人しらず
ゆきかへりここもかしこも旅なれや来る秋ごとにかりかりとなく
よみ人しらず
秋ごとにくれどかへれはたのまぬを声にたてつつかりとのみなく
よみ人しらず
ひたすらにわがおもはなくにおのれさへかりかりとのみなきわたるらん
よみ人しらず
天の河かりぞとわたる佐保山のこずゑはむべも色づきにけり
藤原忠房朝臣
秋霧のたちのの駒をひく時は心にのりて君ぞこひしき
よみ人しらず
秋の野の錦のごとも見ゆるかな色なき露は染めじと思ふに
よみ人しらず
秋の野にいかなる露のおきつめは千々の草葉の色かはるらん
よみ人しらず
いづれをかわきてしのばん秋の野にうつろはんとて色かはる草
友則
声たててなきぞしぬべき秋霧に友まどはせる鹿にはあらねど
よみ人しらず
誰きけと声白妙にさを鹿のながながしよをひとりなくらむ
よみ人しらず
打ちはへて影とぞたのむ峰の松色とる秋の風にうつるな
よみ人しらず
はつしぐれふれば山辺ぞおもほゆるいづれの方かまづもみづらむ
よみ人しらず
いもが紐解くと結ぶとたつた山今ぞ紅葉の錦おりける