和歌と俳句

紀貫之

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山の端を 見ざらましかば 春霞 たてるもしらで 経ぬべかりけり

よる人も なき青柳の 糸なれば 吹き来る風に かつ乱れつつ

うつろはぬ 松のなたてに あやなくも やどれるの 咲きて散るかな

荻の葉の そよぐ音こそ 秋風の 人にしらるる はじめなりけれ

あま雲の よそのものとは 知りながら めづらしきかな のはつこゑ

いづれをか 花とはわかむ 長月の ありあけの月に まがふ白菊

拾遺集・冬
流くるも みぢ葉見れば 唐錦 滝の糸もて 織れるなりけり

木の間より 風にまかせて 降るを 春来るまでは 花かとぞみる

かつ見つつ 飽かずと思ふに さくら花 散りなむ後ぞ かねて恋ひしき

水にさへ 春や暮るると たちかへり 池の藤波 をりつつぞ見る

このかはに はらへて流す 言の葉は 波の花にぞ たぐふべらなる

天の川 夜ふかく君は 渡るとも 人知れずとは 思はざらなむ

おなし枝に 花はさけれど 秋萩の 下葉にわきて 心をぞやる

花の色を ひさしきものと 思はねば われは山路を かりにこそみれ

花にのみ 見えし山の尾 冬くれば さりげだになく 霜枯れにけり

春ちかく なりぬる冬の 大空は 花をかねてぞ 雪は降りける

拾遺集・春
梅の花 まだちらねども ゆく水の そこにうつれる かげぞ見えける

ともどもと 思ひ来つれど 雁がねは おなし里へも 帰へらざりけり

うつろはぬ 色に似るとも なきものを 松が枝にのみ かかる藤波

春ふかく なりぬるときの 野辺みれば 草の高焉@色まさりけり