大宮の内にも外にも光るまで降れる白雪見れど飽かぬかも
秋の田の穂向き見がてり我が背子がふさ手折り来るをみなへしかも
今朝の朝明秋風寒し遠つ人雁が来鳴かむ時近みかも
天離る鄙に月経ぬしかれども結ひてし紐を解きも開けなくに
家にして結ひてし紐を解き放けず思ふ心を誰れか知るらむ
雁がねは使ひに来むと騒ぐらむ秋風寒みその川の上に
馬並めていざ打ち行かな渋谿の清き磯廻に寄する波見に
ま幸くと言ひてしものを白雲に立ちたなびくと聞けば悲しも
かからむとかねて知りせば越の海荒磯の波も見せましものを
庭に降る雪は千重に敷くしかのみに思ひて君を我が待たなくに
白波の寄する磯廻を漕ぐ舟の楫取る間なく思ほえし君
世間は数なきものか春花の散りのまがひに死ぬべき思へば
山川のそきへを遠みはしきよし妹を相見ずかくや嘆かむ
春の花今は盛りににほふらむ折りてかざさむ手力もがも
うぐひすの鳴き散らすらむ春の花いつしか君と手折りかざさむ
山峡に咲ける桜をただ一目君に見せてば何をか思はむ
うぐひすの来鳴く山吹うたがたも君が手触れず花散らめやも
あらたまの年返るまで相見ねば心もしのに思ほゆるかも
ぬばたまのゆめにはもとな相見れど直にあらねば恋やまずけり
あしひきの山きへなりて遠けども心し行けば夢に見えけり
春花のうつろふまでに相見ねば月日数みつつ妹待つらむぞ
あしひきの山も近きをほととぎす月立つまでに何か来鳴かぬ
玉に貫く花橘をともしみしこの我が里に来鳴かずあるらし
渋谿の崎の荒磯に寄する波いやしくしくにいにしへ思ほゆ
玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり
ぬばたまの月に向ひてほととぎす鳴く音遥けし里遠みかも
奈呉の海沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば
我が背子は玉にもがもな手に巻きて見つつ行かむを置きて行かば惜し
布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年のはに見つつ偲はむ