玉桙の道に出で立ち別れなば見ぬ日さまねみ恋しけむかも
我れなしとなわび我が背子ほととぎす鳴かむ五月は玉を貫かさね
都辺に立つ日近づく飽くまでに相見て行かな恋ふる日多けむ
立山に降り置ける雪を常夏に見れども飽かず神からならし
片貝の川の瀬清く行く水の絶ゆることなくあり通ひ見む
我が背子は玉にもがもなほととぎす声にあへ貫き手に巻きて行かむ
矢形尾の鷹を手に据ゑ三島野に猟らぬ日まねく月ぞ経にける
二上のをてもこのもに網さして我が待つ鷹を夢に告げつも
松反りしひにてあれかもさ山田の翁がその日に求めあはずけむ
心には緩ふことなく須加の山すかなくのみや恋ひわたりなむ
あゆの風いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小舟漕ぎ隠る見ゆ
港風寒く吹くらし奈呉の江に妻呼び交し鶴多に鳴く
天離る鄙ともしるくここだくも繁き恋かもなぐる日もなく
越の海の信濃の濱を行き暮らし長き春日も忘れて思へや
雄神川紅にほふ娘子らし葦付取ると瀬に立たすらし
う坂川わたる瀬多みこの我が梅の足掻きの水に衣濡れにけり
婦負川の早き瀬のごと篝さし八十伴の男は鵜川立ちけり
立山の雪し消らしも延槻の川の渡り瀬鐙漬かすも
志雄道から直越え来れば羽咋の海朝なぎしたり舟楫もがも
鳥総立て舟木伐るといふ能登の島山今日見れば木立茂しも幾代神びぞ
香島より熊来をさして漕ぐ舟の楫取る間なく都し思ほゆ
妹に逢はず久しくなりぬ饒石川清き瀬ごとに水占延へてな
珠洲の海に朝開きして漕ぎ来れば長浜の浦に月照りにけり
うぐひすは今は鳴かむと片待てば霞たなびき月は経につつ
中臣の太祝詞言言ひ祓へ贖ふ命も誰がために汝れ