我妹子がやどの籬を見に行かばけだし門より帰してむかも
うつたへに籬の姿見まく欲り行かむと言へや君を見にこそ
板葺の黒木の屋根は山近し明日の日取りて待ちて参ゐ来む
黒木取り草も刈りつつ仕へめどいそしきわけとほめむともあらず
ぬばたまの昨夜は帰しつ今夜さへ我れを帰すな道の長手を
今造る久邇の都は山川を見ればうべ知らすらし
山彦の相響むまで妻恋ひに鹿鳴く山辺にひとりのみして
このころの朝明に聞けばあしひきの山呼び響めさを鹿鳴くも
秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり
さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露
さを鹿の胸別けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる
ひさかたの雨は降りしけ思ふ子がやどに今夜は明かして行かむ
高円の野辺の秋萩このころの暁露に咲きにけむかも
たまきはる命は知らず松が枝を結ぶ心は長くとぞ思ふ
万葉集・巻第三・挽歌
我が大君天知らさむと思はねばおほにぞ見ける和束杣山
万葉集・巻第三・挽歌
あしひきの山さへ光咲く花の散りぬるごとき我が大君かも
万葉集・巻第三・挽歌
はしかきも皇子の命のあり通ひ見しし活道の道は荒れにけり
万葉集・巻第三・挽歌
大伴の名負ふ靫帯びて万代に頼みし心いづくか寄せむ
橘のにほへる香かもほととぎす鳴く夜の雨にうつろひぬらむ
ほととぎす夜声なつかし網ささば花は過ぐとも離れずか鳴かむ
橘のにほへる園にほととぎす鳴くと人告ぐ網ささましを
あをによし奈良の都は古りぬれどもとほととぎす鳴かずあらなくに
鶉鳴く古しと人は思へれど花橘のにほふこのやど
かきつばた衣に摺り付けますらをの着襲ひ猟する月は来にけり