定家
夕まぐれはなたちばなに吹く風にあはれは秋と思ひけるかな
定家
五月雨の雲のあなたをゆく月のあはれ残せとかをるたちばな
定家
ふるさとは庭もまがきも苔むして花たちばなの花ぞちりける
定家
ふるさとの花橘にながめして見ぬゆくすゑぞはてはかなしき
定家
夜もすがら花たちばなを吹く風の別れがほなるあかつきの袖
定家
あくがれぬ花たちばなのにほひゆゑ月にもあらぬうたた寝の空
俊成
いにしへをしのぶ心を添ふるかなみおやのもりに匂ふたちばな
俊成
ふるさとにいかに昔をしのべとて花たちばなの風に散るらむ
俊成
住の江に花たちばなも匂ひけり松もや昔おもひいづらむ
良経
たちばなの花散る里に見る夢は打ち驚くも昔なりけり
定家
あれまくも 人はをしまぬ ふるさとの ゆふかぜしたふ のきのたちばな
新古今集 定家
夕暮れはいづれの雲のなごりとて花たちばなに風のふくらむ
俊成
いにしへを思ひよそへてしのぶれば花たちばなや我をまつらむ
定家
たが袖を花たちばなにゆづりけむ宿いくよとおとづれもせで
雅経
ほととぎす まつ夕暮に にほひきて たのめかほなる 軒のたちばな
俊成
よそへても昔は今はかひもなし花たちばなの袖の香もがな
良経
風かほる軒のたちばなとしふりてしのぶの露を袖にかけつる
雅経
人毎に こふるむかしは かはれども にほひはおなし 軒のたちばな
定家
ほととぎすなくやさ月のやどがほにかならずにほふ軒のたちばな
定家
たちばなの袖のかばかり昔にてうつりにけりなふるきみやこは
実朝
古をしのぶとなしにふるさとの夕べの雨にほふたちばな
実朝
うたたねの夜の衣にかほるなりものおもふ宿の軒のたちばな
定家
たちばなの花ちる里の夕月夜そらにしられぬ影やのこらむ
定家
ふる里のはなたちばなの白妙にむかしのそでは今にほひつつ
定家
袖の香は花たちばなに残れども絶えてつれなき夢のおもかげ