和歌と俳句

藤原雅経

詠千日影供百首

春たつと いふばかりなる つきひにて けふより空や かすみそむらむ

なほさゆる おなし雪げの そらの雲 たたまくをしき 春霞かな

みねの雪 たにの氷も とけぬらむ うぐひすさそへ 梅のした風

野辺のいろは 若菜つむべく なりぬれど やまのおくには なほ雪ぞふる

みわたせば 野辺はみどりに 雪消えて いまは木の芽も 春雨ぞふる

越の空は いくへの雲の 上にまた かすみ飛びわけ かへる雁がね

花やさく かすみのうちも しらくもの かかれる山の あけぼのの空

花のいろは いまだよそにも みねの雲 かさねてさゆる きさらぎの山

雲のいろも おなしながらの 山桜 かすみぞ志賀の 春のあけぼの

白雲と かすみはてても あしひきの 山のかひより 春やゆくらむ

ひさかたの あまの羽衣 ころもわかじ けふのならひの 夏は立つとも

この頃は あなうのはなの かきねにて やまほととぎす なかぬ日ぞなき

かけて待つ そのかみやまの ほととぎす けふや初音に あふひなるらむ

あやめゆふ おなし淀野の ほととぎす なれが鳴くねも 枕にぞする

人毎に こふるむかしは かはれども にほひはおなし 軒のたちばな

いまはただ さそふ水あらば と思へども 袖のみぞうく さみだれの空

世の中は ふかきちぎりを 鵜飼舟 しづまむよよの せをたづねつつ

露をさへ 玉とあざむく はちす葉の にごりにしまぬ 夏の夜の月

穂にはいでぬ 夏野のすすき したそよぎ 吹く方しらぬ 秋風のこゑ

春も過ぎ 夏のひかずも たけくまの 松吹く風や 秋ならずとも