初瀬川 きのふかみそぎ すがはらや ふしみのさとの けさの秋風
あやなしや 露ふきむすぶ ゆふ風に 散るらむ小野の 秋萩の花
よのなかを こころひとつに 秋風の 吹きにし袖に 荻の上露
雁のくる そなたの雲の たよりとて つばさをおくる 秋の山風
あらしふき 霧はれあがる 山の端に なほほのかなる 夕づく夜かな
秋とほく 露にひかりや 満ちぬらし 裾野にしろき 草の上の露
秋はただ なほ奥山の ゆふまぐれ 紅葉ふみわくる 鹿のねも憂し
たれもみよ うきよを秋の すゑの露 もとの雫の 浅茅生の風
おもふより ややこがらしの こゑも憂し 秋にわかるる 夕暮の山
荻の葉に なれし音こそ かはれども これも身にしむ こがらしの風
山めぐる しぐれの雨の たてぬきに 雲のはたての をりぞさびしき
ききわかぬ 夜半のあらしや たゆむらむ 木の葉の音も ふりみふらずみ
さとかよふ 四方のあらしの こゑ寒し いづれの山に 初雪かふる
かたしきや おきまよふ霜の さむしろに いくよの冬を 宇治の橋姫
月影は 芦屋の沖に かたぶきて わが住む方か 千鳥なくなり
冴えゆけば あしまををしの とりどりに ともねあらそふ 夜半のもろこゑ
吉野川 たゆるときなき たきつせに あらし落ちそふ 冬のさやけさ
冬のうちは いづれを梅の 雪のいろに にほふ垣根や 咲ける初花
くれはつる けふをあはれと まどろめば いやはかななる ひととせの夢