中川や渡りに咲ける卯の花は垣根つづきに波ぞ越えける
みあれひく今日の葵を見てもまづ神にたのみをかけそふるかな
夏ごとに契るとならばほととぎすかくしも人になど待たるらむ
みづがきやいつきの今日のみとひらき飾るあやめの香さへなつかし
おほあらきの浮田の早苗生ひにけりまきのしたくさとりなまがへそ
よを重ねともしになづむますらをは鹿をまつにや焚きつくすらむ
五月雨は岩波あらふ貴船川かはやしろとはこれにぞありける
いにしへをしのぶ心を添ふるかなみおやのもりに匂ふたちばな
わがたまもあくがれぬべし夏蟲の御手洗川にすだく夕暮れ
むらさきの野邊のしばふの壺すみれ帰さの道もむつまじきかな
あはれさを人見よとても立てざらむ煙さびしきしづが蚊遣火
野邊におくおなじ露とも見えぬかな蓮の浮葉にやどる白玉
いはかげやまつがさきとの氷室山いづれ久しきためしなるらむ
ふりにけるおぼろの清水掬びあげて昔の人の心をぞ知る
おもふこと今は水無月はてぬらむ御手洗川に禊しつれば
今朝みれば嵯峨野の露も色づきて嵐の山に秋風ぞ吹く
たなばたの逢ふ夜の空の更くるにぞ秋のこころは砕けそめける
山田守るかりほに真萩さきぬれば花に添水もたつるなりけり
をみなへし虎ふす野邊に匂ふとも折らではいかが人の過ぐべき
なにごとを思ひ乱れて絲すすき穂にいでながら結ぼほるらむ