和歌と俳句

藤原定家

後仁和寺宮花鳥各十二首

うちなびき春くる風のいろなれや日をへて染むる青柳のいと

かざしをる道行き人の袂までさくらににほふきさらぎのそら

行く春の形見とや咲くふぢの花そをだにのちの色のゆかりに

白妙の衣ほすてふ夏のきて垣根もたわにさける卯の花

ほととぎすなくやさ月のやどがほにかならずにほふ軒のたちばな

おほかたの日かげにいとふみな月の空さへをしきとこ夏の花

秋ならで誰もあひ見ぬをみなへしちぎりやおきし星合のそら

秋たけぬいかなる色と吹く風にやがてうつろふもとあらの

花すすき草の袂のつゆけさをすてて暮れ行くあきのつれなさ

神無月霜夜の菊のにほはずばあきのかたみになにをおかまし

冬の枇杷木草のこさぬ霜の色を葉がへぬえだの花ぞさかふる

色うづむ垣根の雪の花ながら年のこなたににほふうめがえ

春来てはいくかもあらぬ朝戸いでにきゐる里のむらたけ

狩人の霞にたどるはるの日をつまどふきじのこゑに立つらむ

すみれ咲く雲雀の床に宿かりて野をなつかしみくらす春かな

郭公しのぶの里にさとなれよまだ卯の花のさつきまつころ

まきのとをたたく水鶏のあけぼのに人やあやめの軒の移り香

みじか夜の鵜川にのぼるかがり火のはやくすぎゆく水無月の空

長き夜に羽をならぶるちぎりとて秋まちわたるかささぎの橋

ながめつつ秋の半もすぎの戸にまつほどしるき初かりのこゑ

ひと目さへいとどふかくさ枯れぬとや冬まつ霜に鳴くらむ

夕日かげむれたるたづはさしながら時雨の雲ぞ山めぐりする

千鳥なくかもの河瀬の夜半の月ひとつにみがく山あゐのそで

ながめする池の氷にふる雪のかさなる年ををしの毛ごもろ