和歌と俳句

日野草城

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朝耳のうつつに聴きぬうぐひす

うぐひすや国政ややに明るみて

うぐひすや日に日に近き総選挙

仰臥して所得税確定申告す

セロリの香春もゆふべは肌寒き

見舞客淋漓と酔へり夜の

きさらぎの花いきいきと選挙済む

落選の友あり二月尽寒し

お水取猫の恋愛期も過ぎて

せせらぎの耳に立つ夜や沈丁花

春の雨ひとり娘のひとり旅

子は旅に春浅き富士晴れたりや

子は留守の照る日曇る日冴え返る

家を打つ春のはやてにたじろぐ灯

老夫婦のみのあけくれ春寒き

春の宵子の旅ばなし聴き倦かぬ

つつがなく旅を戻りし子の朝寝

花ぐもり濃ければ雲雀冴えにけり

春寒の初夜過ぎて「田園」を聴く

妻の顔いつも仰ぎて十とせ臥す

おぼろ夜のブルースはかなげに術なげに

子の友らつぎつぎ嫁ぎ花ぐもり

未見なりし友来て親し春の昼

聞くだに愉しの木立花満つと

月夜風つのる花吹雪してをらむ