しばらくは春草を見て夕かな
試歩五十メートル往きて春惜む
妻の肩低きに手措き春惜む
死と隔つこと遠からず春の雪
竿竹を買ふや初蝶日和にて
うららかなけふのいのちを愛しけり
春昼の交響楽を溢れしむ
水温みつつあり妻の夜の祈り
暮春の書に栞す寶くじの殻
妻が持つ薊の棘を手に感ず
衰へしいのちを張れば冴返る
恋ごころわが子にありや初雲雀
朝しづか春の雨だれぴちぴちと
うぐひすや春眠の尾のなほ煙る
囀りや都会を見ざること久し
みな花のかたちにてゆきやなぎの花
ひねもすの風おさまりて春の夜
つれづれに夕餉待たるる木瓜の花
木瓜の花紅し物慾断ちがたし
春の雨五慾の妻が祈念せり
見ゆるかと坐れば見ゆる遠櫻
よちよちと窓までゆきて春惜む