和歌と俳句

日野草城

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しばらくは春草を見て夕かな

試歩五十メートル往きて春惜む

妻の肩低きに手措き春惜む

死と隔つこと遠からず春の雪

竿竹を買ふや初蝶日和にて

うららかなけふのいのちを愛しけり

春昼の交響楽を溢れしむ

水温みつつあり妻の夜の祈り

暮春の書に栞す寶くじの殻

妻が持つの棘を手に感ず

衰へしいのちを張れば冴返る

恋ごころわが子にありや初雲雀

朝しづか春の雨だれぴちぴちと

うぐひすや春眠の尾のなほ煙る

囀りや都会を見ざること久し

みな花のかたちにてゆきやなぎの花

ひねもすの風おさまりて春の夜

つれづれに夕餉待たるる木瓜の花

木瓜の花紅し物慾断ちがたし

春の雨五慾の妻が祈念せり

見ゆるかと坐れば見ゆる遠櫻

よちよちと窓までゆきて春惜む