杉むらのうす闇の青き春日かな
バス待つと居ればゆふづく山ざくら
くたぶれて夕やまざくら白かりき
父母の老きづきおどろく花日和
花くらし高照る春の夕雲に
夕妻と鬱金ざくらはあをあをと
白藤の花蔭にふむその落花
立ちつくし白藤の香はありにけり
花つつじあやにくぐもり鳴くは蟇
春陰の階を金堂へわがのぼる
わが影をひき春陽の階を降る
わがひとりさまよへば一つ紅椿
菖蒲生ふ大和の国のみづたまり
風つのりしだれ葉ざくらは吹き立てられ
寺老いぬ春のしぐれのきらりとす
寺深くひとりわが居りくれぐれに
ゆふぞらにはなびら反らし紫木蓮
春潮の霞みつつあり汽車の音
青む芝少年少女影と馳す
枕べにことしの春は立ちにけり
ぽんかんのあまあまと春立ちにけり
ふと疼く注射のあとや冴え返る
友ら逝きわが生きのびて冴え返る
文旦の皮もこもこと春寒き
破れたる国のはじめをおもんみる
きさらぎの初うぐひすを朝耳に
うぐひすの初音のひびく障子かな