和歌と俳句

木枯らし

凩やかぎりしられぬ星の数 楸邨

背信や卍こがらし前髪に 鷹女

凩の明日へしづかに瞳をつむる 鷹女

掌に裹む光悦茶碗凩堪へ 多佳子

木枯やもろにみだるる大煙 草城

木枯や馬の大きな眼に涙 三鬼

木枯やがくりがくりと馬しざる 三鬼

木枯は高ゆき瓦礫地に光る 三鬼

焼けし樹に叫び木枯しがみつく 三鬼

凩の磧はるかに瀬をわかつ 彷徨子

木枯の町一筋や妙義裾 上村占魚

凩やしばしば鳶の落ちる真似 青畝

凩や焦土の金庫吹き鳴らす 楸邨

凩や焼けのこりしは墓の石 楸邨

凩や火の気よろこぶお滝様 青畝

木枯の真下に赤子眼を見張る 三鬼

静臥せり木枯に追ひすがりつつ 三鬼

木枯の海ごうごうと月光る 三鬼

こがらしや女は抱く胸をもつ 楸邨

凩にいづこかの野の声聞ゆ 誓子

こがらしやしかとくひあふ連結器 楸邨

木枯の過ぎゆく末の音聞ゆ 汀女

木枯の波に捲かるヽ行方かな 真砂女

茂吉
茫々としたるこころの 中にゐて ゆくへも知らぬ 遠のこがらし

木枯の尾につれしぼり出す言葉 静塔

木枯や月いただきて人急ぐ 立子

天邪鬼木枯しゆうしゆう哭く音立て 多佳子

溝乾く伽藍凩絶間あり 多佳子

木枯しや一礼しては赤子抱く 静塔

木枯しの尾を逃れたり主婦の道 静塔

十方にこがらし女身錐揉に 鷹女

こがらしの波止人埋むところなし 蛇笏

木枯の絶間薪割る音起る 多佳子

饐えた臓腑のあかい帆を張り 凩海峡 鷹女

木枯に敗れしものを窪に止め 静塔

凩や大海珊瑚礁見せず 青畝

塚とゐてこがらしに身は委すべし 林火