阿波野青畝
春の鳶
太陽はいま弓張りて薔薇暗し
塗畦を参道にして瑞石寺
蛍にもある物語旅に聞く
蟻のみち正しきことをおこなへり
暁の磴あり茅の輪貫けり
眦を波にしづめし河鹿かな
浜木綿は砂丘のなだれおしとどむ
逞しき浜木綿暮れしより鯖火
先生の昼寝の蘭花磁枕かな
洗ひたる硯の面の遊仙図
束脩の薄き硯を洗ひけり
浜畠螺鈿となりて良夜かな
磔像のコスモス右往左往かな
茶畠や大きな花のここかしこ
見てをりし茶の花昃るずんずんと
宝冠のごとくに枯るる芒かな
凩や火の気よろこぶお滝様
笹鳴にかさりこそりとお滝守
笹鳴に粗懶の百舌のまじりたる
ストーヴの石より寒くさめにけり