和歌と俳句

阿波野青畝

春の鳶

水はけのわるきこのごろ桐の花

御所風の大本山や椎の花

嵯峨御所のかをる泊りかな

風塵のアカシヤ飛ぶよ房のまま

渦潮のとどろく島に蘇鉄咲く

領巾振りし昔の浜の草桔梗

夕立観世音寺の鐘は今

風吹きて鵜篝の火のさかだてる

北浜は沸けど橋上秋の風

しづかなる雨漏なれど大野分

曼珠沙華町へと畷塗りつぶし

那智詣かなひて滝の写真撮る

寝待月雲より落ちて照らしけり

ちりもみぢ帚を客に笑み渡す

伐竹をまたぎかねゐる尼と逢ふ

卵黄のごとく日にあり冬の雲

不自由をしのぎきたりしをつぐ

銀杏ちる音に耳立て畳刺す

ならべゆき心ときめく歌留多かな

たらちめの手ずれの歌留多読みにけり

天の原和田の原より初鴉

矢の中に矢投げて厄を払ひけり

雨だれにおでんのゆげのすぐもつれ