和歌と俳句

三橋鷹女

蔦枯れて緋縅鎧わが夢に

椿咲き山冬濤をめぐらしむ

冬山の陽にあり涙あふれ来る

いのち子に分たん祷り冬山

ひとり子の生死も知らず凍て睡る

胼割れの指に孤独の血が滲む

藷粥や一家といへど唯二人

あはれ我が凍て枯れしこゑがもの云へり

茶の花の盛り流人の如く佇つ

寒林檎音たて食うべ婚期まだ

鳥の名のわが名がわびし侘し

寒月にもつとも近く居ると思ふ

階登り来しが寒月よそよそし

うちかけを被て冬の蛾は飛べませぬ

女侘し冬木を恋へど片恋の

貝族の呟きはこれからです

冬川とわびし男の饒舌と

冬川や未練は水尾と失せがたく

冬雲の行方を誰が知りませう

山鳩も噂も遠くみぞれけり

中年に日月速し

背信や卍こがらし前髪に

の明日へしづかに瞳をつむる