和歌と俳句

三橋鷹女

生き地獄血の池地獄氷り初む

縋るものなし寒風に取り縋る

積むや無言女佛の息荒び

心中に火の玉を抱き悴めり

北風に眉引きいのち死なざりき

枯蔦の交叉幾筋何為さん

寒木瓜の天を弛ませ誕生日

煮凝や指紋は常に悪に似て

寒木瓜の花蕋凝つて供華となる

冬同じ色にポストと消防車

昼月櫛形鮟鱇の肉吊し斬り

枯蔦となり一木を捕縛せり

もろもろの落葉しはてぬ骰を振る

冬に入る見分け難きは枯木と死木

眼光の枯向日葵となりて佇つ

枯向日葵となり千手観音像となる

影に影磔け枯ひまはりと在り

夕日が来て枯向日葵に火を放つ

向日葵の白骨人柱ともならず

遠景に枯木華やか急ぐなよ

手の触れし箇処より氷柱痩せ始む

死の薔薇となり氷柱に透きとほる

わが行くにどの寒木も躯を躱す