和歌と俳句

三橋鷹女

枯色を被て枯色にまぎれ込む

たわたわ泳ぐ山脈雪に覆はれて

花八ツ手日昏れて神も蝋細工

噴水の穂の先凍り誕生日

悔恨の羽毛となりて浮寝せり

鍵束を凍湖に鳴らし神楽舞

受験苦や咲く間のながきシクラメン

振つて来た雀をさむい頭にしまふ

能面がゆくけんらんと花八ツ手

伏目しては練炭置場にも

窟作りこんぶのやうな北風を塗り

北風去つて欅の樹瘤微熱もつ

亡母去るの白根に土かぶせ

おおははを憶ふ浅黄の凍鶴よ

掴み食べて胃の腑をかがやかす

枯山を下りきて熱きぼんのくぼ

積雪や雪もて満たす旅鞄

古稀迎ふおのれ忘れて冬虹見て

大寒の死霊を招く髪洗ひ

わびしさのいのち寄せ合ひ侘助よ

鼻に嗅ぐ侘助の香の骨の香を

冬温く松は下枝をのばすかな

笹鳴に掌をのべ古風な庭木らよ

青ざめて八ツ手が咲けばあの世めく

肋骨に毬かかげ八ツ手老い候

おどろくや己れ影して花八ツ手

夜は夜の八ツ手の手毬死者の手毬

柚子風呂に赤子を沈め北がみへ

翼より枯れて鈴懸並木枯る

枯木山枯木を折れば骨の匂ひ

寒満月こぶしをひらく赤ん坊