和歌と俳句

飯田蛇笏

家郷の霧

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冬来る地の福音にこころ満ち

歓楽の灯を地にしきて冬星座

厳寒の日のはるかにて磨崖佛

峡川の橋にかかりての音

歳月をたのしまざりき冬の山

心徹り気の昂りたる冬ごもり

日の光りつきささる野路霜ながれ

こがらしの波止人埋むところなし

寒星や地に物故せし聖者の數

冬の空こころのとげをかくし得ず

むささびに降りやむ雪のなほ散れる

ふみわたる墓畔のの白極み

雪渓の水とどまらず總落葉

雪の降る幹の林立ゆくかぎり

降りやみて雪山鎮む月あかり

寒日の西空あかり思惟ふかく

木原の日くらげのごとく凍の空

北風高し尼僧の穿きて木靴鳴る

寝しづみて老が火を吹く寒の闇

爐をあけて深山住ひの午下り

あしたより風少しある爐のけむり

手弱女の高臀にして十二月

象潟の弓張月や曇れども

溪の樹に凍み透る日の昇るなり