和歌と俳句

橋本多佳子

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溝乾く伽藍絶間あり

万燈の一つが消えて闇あそぶ

恍惚と万燈照りあひ瞬きあひ

一燈に執し万燈の万忘る

遺身の香女帯の長さ冬日巻く

冬のこの身を寄せしあともなし

断崖の穂絮きらきら宙にあり

椿咲く冬や耳朶透く嫗の血

冬濤の壁にぶつかる陸の涯

に立ちおのれはためきや冬遍路

埼に立つ遍路や何の海彦待つ

遍路歩むきぞの長路をけふに継ぎ

遍路笠裏に冬日の砂の照り

冬の泉冥し遍路の身をさかしま

女遍路や日没る方位をいぶかしみ

女遍路や背負へるものに身をひかれ

孤りは常会へば二人の遍路にて

龍舌蘭遍路の影の折れ折れる

雪の暮墨工の眼に墨むらさき

北風より入り百の油火おどろかす

猟銃音殺生界に雪ふれり

雪はらはず鴨殺生の傍観者

猟夫立つせでに殺生界の舟

鷺撃たる羽毛の散華遅れ降る