和歌と俳句

橋本多佳子

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農婦マヤわが泊つる夜の炉を焚きに

くちそそぐ花枇杷鬱として匂ひ

洗面器ゆげたち凍てし地に置かれ

農婦の瞳の大地のひかりあふれ

雷をきき聖なる燭のもとにわれ

雷雨去り聖歌しづかなりつづく

虹ひくく天主の階を降りんとする

風邪に臥す遠き機銃音とぎれ

海雀を北風に群れしめ解纜す

港遠く海雀北風にはのとべり

北風を航き陸の探照燈に射られ

七面鳥皿に灯ともり聖夜航く

北風の中水夫綱を降り駆けて去る

冬雲に甲板短艇を支へ航く

北風の浪汽艇にうつる腕をとられ

枯るる野に温泉突きの車輪まはるまはる

によみて夫の古椅子ゆるる椅子

ひとりの夜よみて壁炉の椅子熱す

の天ダイナモも鳴りとよむ

北風昏れて熔炉の炎ゆる駅を発つ

風車寒き落暉を翼にせり

風車由布の雪雲野に降りる

トロッコを子が駆り北風の中を来る

子の凧があがり索道よりひくかり

塊炭を投げあひ凧をもたざりき

霧さむく火を焚く船へ子はかへる

夜の鉄路乗りかへてより深き

寝台車真夜雪ふかき駅を見たり

寝台車手洗場に雪原暁けてゐる

雪原を焚きけぶらして鉄路守る

月ひかり雪原暁くる駅に降る

子が遊び雪原の雪駅にも敷く

除雪車のプロペラ雪を噛みてやすむ

信号手青旗に除雪車をゆかす

日輪に除雪車雪をあげてすすむ

雪原をゆくとまくろき幌の橇

橇駆けり雪原にくりき点となる

雪原の昏るるに燈なき橇にゐる

雪原に橇駆り吾子と昏れてゐる

雪原の極星高く橇ゆけり

橇の馭者昴を帽にかがやかす

橇がゆき満天の星を幌にする

ひくき星橇ゆく方の燈と見ゆる

雪原に遭ひたるひとを燈に照らす

ホテルあり鉄階を雪の地に降ろし

ラヂエター鳴りて樹氷の野が暁くる

樹氷林ホテルのけぶり纏きて澄む

熱湯の栓あけ部屋に雪ごもる

雪原のしづけさ部屋の窓をひらき

スキー靴ぬがずおそき昼餐をとる

深くして厨房の音こもる

月が照り雪原遠き駅ともる

月が照り雪原の面昏しと思ふ

雪眼鏡雪原に日も手も碧き

万燈のしづかなひとのながれにゐる

万燈の裸火ひとつまたたける

油火の火立しづかに霜が降る