和歌と俳句

橋本多佳子

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くちそそぐ花枇杷鬱として匂ひ

洗面器ゆげたち凍てし地に置かれ

風邪に臥す遠き機銃音とぎれ

炉によみて夫の古椅子ゆるる椅子

ひとりの夜よみて壁炉の椅子熱す

風車寒き落暉を翼にせり

トロッコを子が駆り北風の中を来る

夜の鉄路乗りかへてより深き

雪原を焚きけぶらして鉄路守る

除雪車のプロペラ雪を噛みてやすむ

雪原をゆくとまくろき幌の橇

雪原の昏るるに燈なき橇にゐる

雪原の極星高く橇ゆけり

ラヂエター鳴りて樹氷の野が暁くる

樹氷林ホテルのけぶり纏きて澄む

スキー靴ぬがずおそき昼餐をとる

深くして厨房の音こもる

月が照り雪原遠き駅ともる

壁炉もえ吾寝る闇を朱にしたり

筑紫なるかの炉かなしみ炉を焚ける

わが手向け冬菊の朱を地に点ず

わが眉に冬濤崇く迫り来る

冬濤のうちし響きに身を衝たる