和歌と俳句

川島彷徨子

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野の梅の的礫として雛の市

淡雪に漏れゐ花菜瓶に挿す

雪しきる洋傘のうへくらきままに

青き空うごかず干布団かへす

春雨にゆるみし河岸に銑鉄あぐる

縁の下の薪とれば蜥蜴出てきたり

蜜柑一つ吸はせやりにし吾子ねむる

初蛙厠にききし寝てきこゆ

雨やみて春燈とみにふけきたる

春雷に吾子の風車は青くまはる

芽ぶく榛夜も日もうすき靄まとふ

風のひびきかすかにこめて榛芽ぶく

おくれきしひともてきたり独活一束

食ひ足りししじまにきこゆ田の蛙

大南風の田の面いづことなくひかる

灯をひくくするや蒸す夜がのしかかる

榛を風無数の光となりてすぐ

油菜をまつさをにして雷きたり

もろこしの葉にふる雨の夜もひかる

実のあかき林檎も見えて眼下

日のあたる方にいづるや鳥立てり

枝鳴りを空にのこして冬木倒る

伐りのこす巨木の幹はみなくろし

雪雲を洩る日かすかに薪にさす

鴨のこゑ凍のゆるみし田ゆきこゆ

雪やむや明り窓より鳶見ゆる

甍いろをひそめてひさし雪催ほす

葡萄棚日々の焚火にくすぼれる

糸切りし鮒の重みの手にのこる

布団の向きそれぞれかへて蚊帳をつる

灯ともりて屋根のおもたき飼屋かな

雨の足早苗田のうへにのみ見ゆ

朝焼くる家々熱を病むごとく

雨音を消して雨音黍わたる

雨水のはけどころなく黍にそふ

四五本の黍まではさす沼の照り

林檎畑うしろに青き林檎売る

向日葵に女は昔かたらざりき

竿さきに風はたつよりつよく吹く

の川けふはけふにてあたらしき

の磧はるかに瀬をわかつ

稲田へぬけてゆく跫音を更けてきく

蚊帳吊るや机のわれに蚊寄りくる

虫のこゑ布団に入ればちかくきこゆ

畦の榛ひととほるときそびえたつ

灯をかへす時雨のありし庭の石

の黄の日があたるより爛熟す

花薄茎をみせずにかがよへる

大根畑一枚づつに没日うく

没りし日のいろをとどめて冬木の幹