われ動けば目高もすこし動きけり
行きに見し雷魚帰路にも浮きゐたり
屋根の上の瑠璃濃く木の芽ふきこぞる
芽ぶく木の空をふかくし外を声
菜の花をうすじろくして雨つのる
真上の日とめて麦おのれ日かげれる
夕べききあしたきき蛙いまだ見ず
ひながき日にごり金雀枝黄をつくす
眼もて追ひ眼もて蜥蜴をいつくしむ
プール捲き花壇をつつみ芝みどり
ダリア球根幸福を買ふごとく択る
蝸牛どこにて傘につきしものか
晩晴の雑草の花みな白し
あやうしと今朝薔薇をみき今も見る
青蜜柑汽車走りだせば見えなくなる
海一日あをく葭簾小屋かわける
護岸に下駄ひびき片蔭こくなれる
満つる潮ぞくぞくと船虫を生む
汽車一刻青野より乗り青野に降る
西日に尻顔のごと出し田草取
金魚藻にせばめられつつ溝の水脈
囮桶のまへ尺寸に川しぶく
西日ありし畳にしろし月の光
訪ねきてはいつも端居をして人妻
月光の果に翳こく葡萄園
よき夫として日にやけて葡萄守
空腹をそそる西日の皿の音
湾のひろさつやつやと青蜜柑ふとる
風いでし潮の照り眼にからみくる
手水おつる下にあつまり嵐の蟹
颱風をきし足拭けどしめりとれず
洪水の上家鴨家鴨を追ひあそぶ
颱風の傷ながくとどむ柘榴の樹
没日光蜻蛉と共にたかくなる
コスモス共に咲かし隣家とにくしみあふ
伏せし掌に頭つめたく蝶もがく
ほごしたる粗朶に白樺まじりゐぬ
短日の窓くれてうつすわれの貌
小夜時雨玻璃におさへて灯かがやく
旭さすより海光露の窓にあふる
海ちかし旭のレモン靄まとふ
海しづかなれば障子をあけておく
肺病みし頃きし養蜂園あらず
階段のうへした共に焜炉おこす
ダリア球根戸袋の下に生け囲ふ
玻璃の気泡路上にうつす寒夜の灯