茂吉
わが眠る枕にちかく夜もすがら蛙鳴くなり春ふけむとす
花とほくひとつの声の蛙澄む 悌二郎
とほく蛙の夜半の自分をかへりみるなり 山頭火
この夜月町田のかはづこゑもせぬ 誓子
初蛙こよひをとまる村に入る 悌二郎
白秋
ここに聴く遠き蛙の幼なごゑころころと聴けばころころときこゆ
白秋
春じめり馬頭観音の小夜ふけて立ちそもにけり田蛙のこゑ
蛙聞く微熱の髪膚夜気に触れ 茅舎
初蛙きりころ遠く近くかな 茅舎
ふと鳴いて白昼やさし野の蛙 林火
さびしさに馴れて寝る夜の蛙かな 占魚
通夜の座のうしろにをれば遠蛙 貞
遠蛙哀しの友も起ち居して 貞
初蛙ひるよりは夜があたたかき 貞
寝られねば寝ることを捨てぬ遠蛙 貞
子とあれば吾いきいきと初蛙 多佳子
月痩する十二時すぎの夜の蛙 林火
遠蛙書肆のともしを痩せしめぬ 林火
門出でて鼻つく闇の蛙かな みどり女
水ありて蛙天国星の闇 三鬼
いんげんの蔓が出そめて初蛙 楸邨
呼びに来てすぐもどる子よ夕蛙 汀女
茂吉
もろごゑに鳴ける蛙を夜もすがら聞きつつ病の癒えむ日近し
夕蛙いもうと兄を門に呼ぶ 敦
小倉山くだれば小田の蛙かな 林火
夕べききあしたきき蛙いまだ見ず 彷徨子
花過ぎの夜色なづみて遠蛙 蛇笏
蛙つぶやく輪塔大空放哉居士 秋櫻子
蛙の夜大きく裂きし菓子袋 林火
鳴きかはす声一鼓づつ初蛙 爽雨
寝椅子おく病後の書斎昼蛙 爽雨
故園逍遥吾に蛙のしたがはず 青畝
一合の酒剰しきく初蛙 林火
初蛙曇を深く滅ぶ田に 悌二郎
けふよりの素足にひびく初蛙 林火