和歌と俳句

大野林火

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幾十の切株の上の春の月

一合の酒剰しきく初蛙

手離さぬ一人子落花掃きゐたり

鳥雲にてらてらと砂丘二並び

めく砂丘十里へ波の足

土間の甕緋桃浸けあり遠砂丘

古町にせんべ齧るや花曇

土筆より航跡一本湾に出づ

大陸橋春暁のレール抱きかかへ

辛夷さき川沿ひに町はじまれり

門川に捨つ長かりし冬の煤

桃櫻飛騨のこどもに甘々帽

春雨や藁の満ちゐる納屋の闇

梨花月夜やまみづ鳴りて牛も寝ねず

どの背戸も筧ひとすぢ梨花月夜

てのひらを添へ白梅の蕾検る

護摩の火の花の会式の場に昏る

花ほつほつ夢見のさくらしだれけり

月光裡しだれてさくらけぶらへり

山上の泊りの谷を見つ

花の山上町は月照る道を

口中にさくら菓子溶くおぼろかな

旅の眠りさくらの方を枕にす

花冷やまだしぼられぬ紙の嵩

春嶺といはんその裾川合へり