和歌と俳句

大野林火

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富士据ゑて一日長者青き踏む

天上に星座移ろふ花篝

花の鬱照らしいだして花篝

田起しの近江や村も濡れいろに

泥運ぶの見えて姥が餅

山櫻佛の御衣ゆるやかに

年毎を死に近づきてさくら見る

鳥帰るみづうみに出てひたすらに

雪国人花びら餅をもたらせし

いろいろの名の風邪も終へ四月馬鹿

うす墨の霞のごとき字に遊ぶ

畦青みそのまま山につながれり

の籠りて山に雲湧かす

告別の香を火の粉に春嵐

飛花を見て熱あがる午後さみしめり

医師去りしあと目をつむり夕永き

草餅に昼をすませし泰さかな

八十八夜足音ひびく大地かな

塀の外世の移りをり蕗の薹

みほとけの前ふくいくと残る雪

能衣裳展にて春昼の極まれり

彼岸鐘目高輪になり輪の光り

彼岸鐘草木聞けり鳥聞けり

春蘭を掘りに入りゆく法の山

満ちて久遠の雲といふべしや