和歌と俳句

大野林火

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13

鶯や耕しかけて十坪ほど

城あるを山人誇る耕しつつ

春遅し低山とても迫る信濃

道に出て夕日に浮び雉子鳴けり

さくらしだれ諏訪の浮城湖つづき

諏訪人や四つ手に躍る春の鮒

の観音むかし舟にて詣でしか

墓にまぎれ曾良の墓あり咲く

春惜しむ随行の笈眼に収め

春来つつあり膳の上にももづくなど

栄螺の荷三日月すでに朧なる

いくたびも花冷えいへり旅の妻

山々に夜も遠近よさくら散る

長き濤受止め大地なり

鳶鴉たたかふ下の畦を焼く

畦火走せあめつちひそと従へり

田も添ひて紅殻塗の春山家

雪片の過ぐ花辛夷うすみどり

夕ざくら檜の香して風呂沸きぬ

落花追ふ双ヶ丘に飛び行くを

病妻と風聞いてゐる二月かな

田遊びや星のさざめき春を呼び

雛舟や手向けのごとく桃一枝

雛流るあをさの礁をひとつ越え

老いらくのはるばる流し雛に逢ふ