啓蟄の大地月下となりしかな
天に鳴る春風薪を割る男
菰除けてやるや苺の紅目覚む
春寒や月満つことも曇りかさね
春さだかわが前に涛崩れたり
青空ゆ辛夷の傷みたる匂ひ
鶯や平らならんと水青みつ
花菫たばね色増す伊豆近し
雛の朝粒見せて霧流れけり
春の月米磨ぐ音の中に出る
一燈にみな花冷えの影法師
春寒し泣けば現はる幼な顔
一歩一歩に日光新た花林檎
白雲や林檎の花に日のぬくみ
同じ木の根に旅の三人やうまごやし
流雲や胡桃花房まだ稚く
蛙の夜大きく裂きし菓子袋
母好みし紅梅昏れて忌日暮る
三椏の花のうす黄のなかも雪
朝櫻軸をあまさずマッチ燃ゆ
荒鋤田火山の夜陰濃かりけり
雪消えて三百町歩天にちかく
サイロ二基大地にふかし花たんぽ
あたたかく牛にわが影あてて撫づ
畦塗の深田踏みぬく音ひびく