丈六の見下し給ふ甘茶佛
花の庫裡白き襖に仕切られし
けふよりの素足にひびく初蛙
和服着てふところに呼ぶおぼろかな
死を打消し打消いのる暮春かなし
土匂ふ雨や八十八夜過ぎ
偕老の八十八夜の茶もともに
鯛豊漁といふ春星も殖ゆるべし
流れゆく雛のあと椿流れゆく
鳥雲に適はずなりしひとり旅
蝶生れてすぐ太陽にまみれたる
早蕨のみどりを小蜘蛛走りけり
行く雁の曇り深めて消えしかな
草餅屋まんまんの川前にせり
華やぐや花のなき木は朧被て
光りあるかぎり落花のただよへる
日々水田殖えて霞の湖の国
山樵の休み小屋あり遅櫻
明日恃めなく花どきも過ぎんとす
死仕度子のことに尽く暮春かな
春愁の生きる力のまだ残るや
音楽ただよふ仰臥世界の春の昼
眠らなむ妻来るまでの麗日を
恩愛の花に囲まれ春眠す
十二階に来てつばくろの真かがやき