和歌と俳句

安住敦

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蝉しぐれ子も誕生日なりしかな

てんと虫一兵われの死なざりき

冬の雁生死知れねばあきらめず

雁啼くやひとつ机に兄いもと

兄いもといつも一緒に枯芝

銀杏ちる兄が駈ければ妹も

帰り花兄妹睦びあひにけり

冬ざくらしづかにいまは兵ならず

兄いもとひとつの凧をあげにけり

父の忌の大寒とこそなれりけり

花の雨買ひ来し魚の名は知らず

子を寝せて湯にゆく妻に春の雁

四月尽兄妹門にあそびけり

妻と子の何興ずるや花あんず

蓬餅母といふもの妻にはなし

春惜む食卓をもて机とし

春の雁傘を忘れてもどりしよ

花吹雪亡父の洋杖を手に愛す

春あらし兄いもとしてまろびけり

散るさくら兄妹あひる逐ひにけり

夕蛙いもうと兄を門に呼ぶ

春の驟雨たまたま妻と町にあれば

白玉や母子誕生の月おなじ

雨降つてゐる金魚玉吊りにけり

しぐるゝや駅に西口東口

枯萩をつかねてありし縄ならむ

ひやひやと日のさしてゐる石榴かな

大年の隣人風呂をたばひけり

春の蚊や職うしなひしことは言はず

花冷えのおのづと消えてゐしたばこ

また職をさがさねばならず鳥ぐもり

無花果の日々育ちゆく雨なれや

胡瓜刻んで麺麭に添へ食ふまたよしや

啼き出づ起きぬけざまに水汲めば

葭切や友その妻を率てきたる

籐椅子や友若ければその妻も

麦秋や投函妻に託して出ず

木々に雨兄妹皿にを頒つ

陶枕のかたきを得たる九月かな

鳥渡る終生ひとにつかはれむ

秋風や夕餉すませて子と町に

秋風やふたゝび職を替へんとし

秋風や引揚寮に兎飼はれ

きりきりと日が落ちてゆく胡桃割る

ランプ売るひとつランプを霧にともし

短日の肉買はむかと呟きしか

かくれ逢ふことかさなりしショールなれ

降誕祭町にふる雪わが家にも